新春インタビュー「日本は世界の中で」【ミニ動画付き】

菊池誉名さん(民間シンクタンク理事・主任研究員)

コロナ、米中対立、民主主義の後退……と、激動する国際社会。これからの世界は、また日本は、どのように進むのでしょう?

菊池さんは、外交、国際問題を扱うシンクタンク(政策研究機関)にお勤めで、調査、研究、さらに官公庁の委託を受けての国際会議の下交渉など、さまざまな活動をしておられます。これからの世界を長期的にどのように見ておられるのか、お話を伺いました。(編集部)

――菊池さんとはいつも、東京の幕屋の集会でご一緒していますが、去年は新型コロナウイルスのために、思うように集まれない期間がありましたね。
コロナによって、世界も大きく変わってきているように見えますが、いかがでしょうか。

確かに、コロナによって顕在化してきた部分もありますが、もともと時代は大きな変わり目に差しかかっていたのです。冷戦以降維持されてきた国際的な枠組みやシステムが、変化している国際情勢に必ずしも対応できず、機能不全に陥っていました。

最近でいえば、中国の国力が強大になって、既存の国際システムとは異なる枠組みを構築しはじめています。「一帯一路」という構想の下に、中国圏のようなものがつくられています。

一方で、アメリカが中心になり形成してきた秩序を自ら壊すような状況も見られるようになりました。WHOといった国際機関に対する信頼も揺らいできていますね。

今後、米中の対立は、部分的にはさらに進むでしょう。でも、冷戦時代のようになるのかというと、恐らくそれはないと思います。

冷戦ではお互いにイデオロギーで完全にブロックしてしまって、交流もせず、経済の関係もなく、ひたすら競争していました。

けれど、相互依存関係が深化した今の世の中で、そのようなブロックはもうできない。それぞれの国が中国圏だけに入る、アメリカ圏だけに入る、となる可能性は、実際には低いでしょう。日本も、現実的に中国と全くつきあわないという選択肢は今、ありえません。

民主主義の後退?

この数年、民主的制度を維持している国の数が減る傾向にあって、「民主主義が後退している」という言われ方をしてきました。

コロナでさらに後退しているという声も聞かれます。仕事上で私がかかわる機会が多いアジア諸国では、それが顕著に表れています。ベトナムやカンボジアなどで、コロナ対策の名の下に法律を変えて、ソーシャルメディアなどに介入できるようにし、表現の自由を制限するようなことが起こっています。

日本のコロナ対策は、制度として締めつけなくても皆が自主的に国の方針に従って生活し、感染者、重症化している人がかなり少ないという、世界的に見て特殊な例です。制度と、それを実際に運用する人の心というものを別々に見ていかないと、これからの世の中で何が必要かを見誤ってしまうのではないかと思います。

そして、これはもっと大きな話になりますが、欧米で形づくられた民主主義による制度自体が行き詰まってきた部分はあるでしょう。また、欧米で発展してきた制度や仕組みをほかの地域に適用しても、必ずしも同じようになるわけではない、という事態が現れてきていると思うんですね。

歴史を考えた時に、今行き詰まってきているのは、せいぜいこの50年か100年ぐらい続いてきた仕組みです。ASEAN諸国などは、第二次世界大戦前はずっと欧米の植民地にされていて、戦後に独立し、まだそれほどたっていません。

それらの国に対して、欧米の基準で見て民主主義的な制度になっているからいいとか悪いとか、改善を求めるというのは、これからの世の中では通じなくなっていくでしょう。むしろ、民主主義が進んでいると思われていた国が、保護主義や自国中心になってきている時に、アジアからもっと違う何かが出てくるのではないかと、私は非常に注目しています。

神に聴くリーダーシップ

――違う何かというときに、具体的に思い浮かぶことはありますか。

昨年逝去された、李登輝元台湾総統のことですね。台湾を国民党による独裁から民主化に移行させた、偉大な指導者です。

そして、制度を変えるにとどまらず、政治の現実の中でリーダーとはどうあるべきかを、自らの生きる姿で示した方でした。

私は若い時に、直接お話を伺う貴重な機会を得ました。その中で、一国の運命を左右するような決断をする時のことを、
「決断を求められる問題は、49パーセント反対、51パーセント賛成と意見が分かれるようなケースばかりです。どうやるかというときに、神が教えてくれます。それに従ってやってゆけば間違いないです」と語られました。(『生命の光』629号参照)

困難な問題にぶつかると、祈って聖書を開き、そこに書いてある聖句から何かを汲もうとされるそうです。そして、神の御旨ならば十字架を背負ってでも台湾のため、次代のためにやろうとされました。また、日本統治時代の教育から受けた、私利私欲を離れて公に尽くす心の大切さを語られました。

私は話の内容にとても感銘を受けましたが、それ以上に李登輝氏の内からわき上がる威厳に圧倒されました。当時、大学院で国際政治学を学んでいましたが、このような政治指導者が今、現におられるのか、と驚きました。

その後、現在の職場に勤めて、冷戦時代を生き抜いた海外の指導者の方々とお会いする機会がありますが、あれほど威厳に満ち、強烈なオーラといいますか、存在感を放つ方との出会いはありません。短い時間でしたが、私の人生に決定的な影響を与えました。

いろいろな国がありますが、アジアではただの多数決ではない、李登輝氏のような神に聴くというリーダーシップがありえるのではないか、と思っています。

李登輝元総統と菊池さん(右隣)
2004年に幕屋の若手が台湾を訪れ、李登輝氏が日本で講演できなかった「幻の講演」をお聴きした。

※「幻の講演会」の映像番組は、こちらから。

求められる変化は

今回のコロナは世界的な事態になりましたが、近年、SARS(サーズ)やMERS(マーズ)といったそれまで知られていなかった感染症が広がりました。グローバル化した今の社会は、いつ世界的な危機に直面してもおかしくない状況にあります。今年、今回のコロナのような新たな感染症や、大災害といった事態が起こらないという保証はありません。

これまでも時代の転換点があり、そのつど国々の仕組みやシステムなどは必然的に変わってきました。50年後、世界のシステムは今とは大きく変わっていることでしょう。でも、単に仕組みを変えるという対処だけでは追いつかないような変化が、これから求められるのではないでしょうか。

私が思うにそれは、本来のものに目覚めさせられる、立ち帰るということです。何にかというと、天に聴いて生きていたような本来の姿に、です。それは、それぞれの国や民族に、何かしら元からあったものでしょう。そういう目覚めをしなければならない歴史の流れに、世の中の状況になっているんじゃないかと思います。

まさにそれを実践されていたのが、李登輝元総統でした。ほんとうに祈って、天に聴いて決断をされていた。自分の主義主張を通すための祈りではなく、それとは違う結果になろうと、天に善き道を聴いて行なうという、そういう目覚めが起こることなのです。

――国際情勢といい、制度を変えるといっても、結局は人間の心のありようにかかわることなのですね。

私のような研究者は、今の米中対立がどうなっていくのか、などを分析するのが一つの仕事ですし、その中で日本がどう立ち振る舞うのかが関心事です。

でも、100年単位で世界を見た時に私の心の中にあるのは、天に聴く元の姿に立ち帰ることなのです。

アイデンティティーこそ

李登輝氏は教科書を作り直すなどして、大陸出身者やいくつもの部族に分かれた原住民などがいる台湾の人々のアイデンティティーを確立しようとされましたが、それもすごいことだったと思います。

私が中国のあるエリート層の人と話をした時、印象的だったのが、実際には台湾が中国と一緒にはなれないということはわかっている、なぜなら、彼らはもはや自分たちのことを中国人だと思っていないからだ、と言ったんです。

自分たちは台湾人だ、というアイデンティティーが浸透していることが、台湾を守り、存在させている。それは他の国にも、日本にもいえることでしょう。

原始福音の信仰をもち、『生命の光』の手島郁郎先生の講話から大きな感化を受けてきた私は、先生が大和魂の上に原始福音の信仰が根づくことを願われた意義の深さを感じます。

日本人のアイデンティティーという時、その中心に、天を仰ぎ、また民のために祈ってくださるご皇室の存在があります。本来的に祈りを基としている日本という国の存在は、今後、世界でますます重要になると思っています。


菊池誉名さん

1979年生まれ。北海道で育ち、北方領土に関心をもつ。東京裁判に関する本を読んで、先人が日本のために戦ったことを思い、国益を守るために働きたいと志した。東京都在住。


本記事は、月刊誌『生命の光』815号 “Light of Life” に掲載されています。