エッセイ「『サピエンス全史』と砂漠の一夜」【ミニ動画つき】

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『サピエンス全史』という、この数年、世界じゅうで読まれているベストセラーがあります。

フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏が絶賛したのをはじめ、バラク・オバマ前アメリカ大統領や、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏など、世界的な有識者や著名人もこの本を薦めています。

作者は、イスラエルにあるヘブライ大学の教授、ユヴァル・ノア・ハラリという歴史学者で、その後に出された人類の未来に関する本も、大きな話題になっています。

私は東京に住む大学生ですが、一昨年、聖書の国・イスラエルに半年ほど行ってきました。私は『サピエンス全史』を読んでいたので、ヘブライ大学で学ぶ、幕屋の留学生に連れていってもらって、ハラリ教授の授業をのぞいてみたんです。いわゆる“もぐり”なのに、ハラリ教授に直接、質問までしました。それぐらい関心があったんです。

その本は、私たち人類(ホモ・サピエンス)が、どうしてこれほどまで発展してきたのかについて、とても長いスパンで歴史を見て述べています。そして、その理由は、人類は虚構を共有することができたからだ、と言っています。

神話だとか、社会制度などは、物として存在するわけではなく、目には見えないけれど、人類にはそれを共有する想像力があった。だからこそ、知らない者同士でも力を合わせることができた。それで、大きな集団を築いていった。

しかし、ホモ・サピエンスよりも筋肉が発達し、大きな脳をもっていたネアンデルタール人には、ホモ・サピエンスのように見えないものを共有して大きな集団を作ることができなかった。それで勝ち残ることができず、絶滅してしまったのだろう。

貨幣だって、それ自体に価値があるわけではないのに、価値があると人類の多くが信じたからこそ、利用してくることができたのだ。

そういう話は、そうだったのか、と思わずうなずくほど、とても説得力があります。

ただ、ハラリ教授は、神も、宗教も、そのような虚構の一つとして論じているのです。

私は、神様を信じ、神様に祈ることを大切にする環境で育ってきました。それに、神様がおられることを私自身が感じた体験をもっています。でも、これだけ世界的に影響力のある本でそう読むと、私は正直、どうなんだろうという思いもしてきて、矛盾というか、葛藤(かっとう)がありました。

聖書の人物の思いは?

そのころ、イスラエルにいる幕屋の留学生たちと、聖書の時代を体験しようと、砂漠で一夜を過ごしました。皆で、聖書の登場人物・アブラム(後のアブラハム)について学ぶために、創世記を読んで集いました。

砂漠を旅する幕屋の留学生と共に

アブラムは神様から、「あなたの子孫を地のちりのように多くする」と言われたのに、何年たっても子供は生まれず、自分も妻のサライも、どんどん高齢になっていきます。それなのに神様はまた、「あなたの受ける報いは、はなはだ大きいであろう」と言われるのです。アブラムはついに、「あなたは私に何を下さろうとするのですか、子供を与えてくださらないのに」と言いました。

すると神様は、アブラムを外に連れ出し、「あなたの子孫は空の星のようになる」と言われました。その時「アブラムは主を信じた」と書いてあります。

神様に約束されたのに、現実はそうならない。すごい矛盾だったと思います。でも、どうしてアブラムは主を信じることができたんだろう。そう思いながら、夜の荒野で空を見上げました。

それぞれで瞑想をした時、私は皆から遠く離れた所に歩いていきました。荒野は大きくて、真っ暗で、何も聞こえなくて、急に寂しい気持ちになってきました。それで、星空を見上げて、聖書の言葉が歌詞になっているイスラエルの歌をうたいました。

そうしていたら、フッと、「普通の人は1人だと思うところでも、ぼくには神様が一緒にいてくださる。絶対に1人じゃないんだ!」という思いがわいてきました。

神様は、虚構なんかじゃない。すごく大きなことがわかった気がしました。

矛盾を超える世界がある

荒野に昇る朝日(イスラエル・ネゲブ)

それで、私は瞑想をやめて、皆よりも早く、宿泊する場所に帰ってきたんです。そうしたらそこに、幕屋の代表としてイスラエルで留学生をお世話してくださっている、伊藤啓光(ひろあき)さんがいました。

伊藤さんと2人で話をしました。伊藤さんは20年近く前、高校生だった時に、私の祖父母がいた浜松の幕屋におられたそうです。ご両親と喧嘩(けんか)をした時には、「家出する!」と言って、すぐ近くにあった私の祖父母の家に行き、食事をして、泊まっていくような間柄だった、と言われます。

それが、ある時、私の祖母が突然の事故で亡くなりました。高校生だった伊藤さんにとってそれは、それまでの人生で一番の矛盾だったそうです。

でもお葬式で、私の祖父や皆が心の底から祈った時、祖母の魂が天国へ昇っていった、と確信できる瞬間があった。その時に、矛盾を超える世界が確実にあることを知った、と言われました。

そして、そのことが大きなきっかけとなって、神様のお役に立つ者になりたい、という思いが突き上げてきて、自分は今、こうしてイスラエルにいるんだ、と話してくれました。

祖母のお葬式があった時、私はまだ2歳だったので、何も覚えていません。伊藤さんの話を聞いて、そうだったのかと、とても心に残りました。

神様はそうやって私に、いくつもヒントを与えてくださいました。聖書のアブラムの箇所を読んだこと、荒野で夜空を見上げて教えられた体験、また伊藤さんと話したことを通して、「矛盾と思えることも超えていける世界が、絶対にあるんだ!」と知りました。

『サピエンス全史』を読んで葛藤を覚えたことも、それを超えていける世界があると教えるために、神様が私に与えてくださったことだったんだと思います。

熱い思いを冷まそうとするような現実の毎日にあって、神様に祈って熱く生きていきたいです。

(Y.M.さん)


本記事は、月刊誌『生命の光』2020年2月号 “Light of Life” に掲載されています。

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