信仰の証し「見えないけれど確実な世界がある」―中性子研究者の心の転換―

奥 隆之
大強度陽子加速器施設内にて

皆さんは、病院でレントゲン写真を撮った経験がありますよね。それはX線が体を透過して体内が見えるようになり、骨折した箇所や患部がわかるからです。X線は骨などの硬いもの、特に金属にはよく反応します。

でも逆に、X線では金属の中のものは見ることができないんです。それで、金属の配管の中を流れる水や空気のようすを調べるには、中性子が使われます。中性子は金属でも透過することができ、X線では見えない水や水素にも敏感に反応するので、金属の配管の中を流れる水や空気のようすがよくわかるのです。

すべての物質は原子からできていて、その核は陽子と中性子でできています。中性子は金属なども比較的よく透過する特性をもっています。

そこで最近、自動車メーカーは、車の性能や燃費にもかかわるカーエアコンの改良に利用できると注目しています。エアコンは金属でできているため、実際に内部がどのように稼働しているのか、今まではエンジニアも見たことがありませんでした。それが、中性子を用いることで、内部のようすを知ることができるようになったのです。

私は今、茨城県東海村にある、世界でもトップレベルの陽子加速器を備えた複合研究施設 J-PARC(ジェイパーク)で、中性子を使うさまざまな実験をしています。

ここで毎日、私は充実した気持ちで仕事に取り組んでいます。でも、もし私が神様にお出会いしていなければ、今のような自分の心ではなかったと思います。

最後に響いた神様の声

10年ほど前、家庭内の不和から妻と離婚することになりました。2人の子供たちとも別れて、毎日がつらくてたまらず、夜な夜な飲みに出歩いては寂しさを紛らわす、暗闇の中にいるような生活を続けていました。

その頃、ある人から水戸の幕屋の集会に出ることを勧められました。それまで宗教といえば墓参りをするくらいでしたから、集会で祈りの時に、皆さんが真剣に大声で祈っている姿には驚きました。でも、当時の私は、もしここで救われるならと、必死な思いでした。

頂いた『生命の光』には、聖霊に満たされて回心したとか、神様に出会ったという話がたくさん載っています。私にもそんなことが起こるのかな、神様は私の悩みや問題も解決できるのだろうか、と思いました。でも、幕屋の人たちに勧められた夏の聖会(泊まりがけで聖書を学び、祈る特別集会)までは、とにかく幕屋の集会に行きつづけようと心に決めました。

そして2008年の夏、河口湖畔で開かれた聖会に出席しました。聖会では、初めて参加した人たちのための会があり、私は、「ほんとうに神様なんているのだろうか、もしいるのなら声を聞かせてほしい」という思いで出ていました。

そこでは、腹から声を出して祈るようにという指導があったので、私は、「神様、あなたがおられるなら、声を聞かせてください!」と大声で祈りました。でも、何も聞こえません。私の声が小さくて神様に届かないのかと思い、さらに大きな声で祈りつづけました。

集会も終わりに近づき、「ああ、もう自分には何も起こらずに集会が終わるのか」と思った時でした、 「ずっと前から導いているじゃないか……」という声ならぬ声が、私の内に響いてきたのです。

その声を聞いた途端、突然涙があふれ出し、号泣しました。何が起こったのかわかりませんでした。でもその一声で、私の魂は神様にしっかりとつかまれたんです。その声は私の心に深く刻まれました。

そして、その翌年の聖会では、さらに聖霊を受けました。うれしくてならず、帰ってからは、近所の幕屋の方々と一緒に、私の家で毎朝祈ることを始めました。

こうして私の信仰の生活が始まったのです。その毎日の祈りでは、私の心の奥に痛みとしてあった、別れた子供たちのことも、祈りつづけています。

研究施設近くの砂浜で時々瞑想している

恐れず信じて進む

私は数年前から研究施設の仕事以外に、地元の国立大学でも教えるようになりました。これは、国が進めるクロスアポイントメントという制度で、多彩な人材が大学や公的研究機関、企業などの壁を越えて、複数の組織の中で活躍し、それによりイノベーションを活性化させよう、というものです。

最初この話を頂いた時、忙しくて手が回らないのにとても無理だと思い、断りました。しかも私は、人前で話すのが極度に苦手で、大学で教えるなんてとてもできない、と思ったのです。

その夜、仕事から家に帰ると、新しい『生命の光』が届いていました。そこには、「神の導きを恐れるな。神は人間に対して最善を願っておられるのに、恐れていたのでは神の力は働かない」と書かれていたのです。

それを読んだ時、これは今の自分に対して言われていることなんだ、と心に迫ってきました。自分を見ては、教えるなんて無理だと決めつけていましたが、神様に信じて恐れず前進するしかない、と思いました。それで翌日、大学で教える話を受けるメールを書き、最後は祈る思いで、エイッと送信ボタンを押しました。

それから3年、研究施設では学生を預かり、また大学の授業では100人ほどの学生の前で中性子に関する講義をしています。それはとても大変で、教えることなら、ほかに適任者がいたんじゃないか、と思ったこともあります。

でも今は、私がこの仕事に選ばれたのには、きっと神様の深い思いがあるはずだと思っています。

時代の最先端の研究を担う若い人材を育てることは、日本の国にとっては非常に大事なことです。それも、ただ教えるだけでなく、若い人たちに、自分が今まで歩んで取り組んできたことや、未来に向かう思いなどを伝えることができたら、と思っています。

学生を前に、中性子について基礎的な説明をする奥さん

私は、目に見えない中性子(注1)のスピンを扱っていますが、それが『裸の王様』に出てくる詐欺師の仕立屋みたいに思えて、自分でもおかしくなることがあるんですね。

透明のガラス容器に、透明のヘリウム3というガスを入れ、目に見えない赤外線を当てて、そこに中性子を通します。全部見えないものばかりです。「ほら、スピンがそろった!」と言っても、だれにも見えないんですね。

ただ、人生につまずいた私に天から力を与えてくださったのは、見えないけれど確実に導いてくださる神様でした。ですから、目には見えなくても確かな世界を見上げて生きていくことが信仰なんだと思って、日々励んでいます。


(注1)中性子について

すべての物質の重さは、ほとんどが原子核の重さです。原子核は半分が陽子で半分が中性子から成り立っているので、物の重さの半分は中性子の重さということになります。身近な例でいうなら、私たちの体重の半分は中性子の重さだということです。
中性子には磁石のようにスピン(向き)があるのですが、そのスピンを一定にそろえることによって見えないものが見えるようになり、新たな情報が取り出せるようになります。この研究によって、たとえば、新エネルギーとして期待されている水素エネルギーの元になる水素の状態をとてもよく観察できるようになり、いまだ解明されていない物理現象の謎を解き明かすための情報を得られることが期待されています。


本記事は、月刊誌『生命の光』801号 “Light of Life” に掲載されています。