童話「みっちゃんの五線譜」

みっちゃんは、ピアノを弾くのが大好きな、小学3年生の女の子です。昨日もらった新しい楽譜から、どんなメロディーが出てくるのか楽しみで、今日も学校から帰ったら、真っ先にピアノに向かいます。

しばらくすると、「みっちゃん、あーそぼ」と近所に住むすみれちゃんが誘いにきました。

みっちゃんは、「すみれちゃん、ちょっとまってて。あと1段でおわるからー」と言って、鍵盤に指をおくと、なんだか手の指がズキズキ痛みます。

「あれ、どうしたのかな。練習のしすぎかな。まあいいや」。すみれちゃんと児童公園のジャングルジムで遊んでいると、今度は、ひざがズキンズキン。

5時のチャイムがなって、2人はおうちに帰りました。

「ただいまー」

「おかえり。あら、顔が真っ赤よ。熱があるんじゃない?」

お母さんに言われて、体温を測ってみると、みっちゃんは熱がありました。すぐに近くのお医者さんに行って診てもらったら、大きい病院への紹介状を書いてくれました。

次の日、みっちゃんはお母さんに連れられて、大きい病院に行きました。

「みっちゃん、みっちゃんはちょっと難しい病気にかかっているから、これからは走ったり、激しい運動をしたりしてはいけないよ」とお医者さんに言われました。

それからみっちゃんは毎日、朝も昼も夜も、お薬を飲まなければいけなくなりました。そうしたら、鼻血がよく出るようになりました。

みっちゃんは、夜寝る前にお母さんと、「神さま、早く元気にしてください」と、お祈りをするようになりました。

ある日、4時間目の体育の時間、みんなは鉄棒の授業。校庭の木の陰に腰をおろして、みっちゃんは今日も見学です。

「あ~あ、つまんないな。みんなと一緒に、鬼ごっこやかけっこしたいなあ」。ひまつぶしに、砂に絵を描いたり、幅の広い飛行機雲が、まるで五線譜のようになっているのを、ぼーっと眺めたりしていました。あんまり長い間、空の明るい方を見ていたので、目の前が急に白くなって、何も見えなくなりました。

あれあれ? 目をぎゅっと閉じて、ゆっくりと開けると、なんとそこは、さっき見ていた、飛行機雲の上でした。

(うそでしょ、信じられな~い)と思っていると、雲の隙き間からポンポンポンと、足が生えた四分音符みたいなのが飛び出してきました。

「わしは、ドじゃ。キミはなんじゃ?」

「私、みっちゃん」

「キミは、ミか。ちょっと変な形をしているが、まあいいじゃろう。早速始めるとしよう」と、ドは言いました。

「ちょっとまってよ。変な形なのはあなたたちでしょ。それに、始めるって何を?」と言いおわらないうちに、へんてこりんな音符たちが、雲の上をジャンプしたり、前回りしたりしはじめました。

「キミ、何してるんだ! キミもやらんか!」

「でも私、お医者さんに跳んだり跳ねたりしてはいけないって言われているの。そうだ! 私は、お休みマークの……えーっと……」

「休符?」

「そう! 休符! 私、休符だから」

「キミは全然わかっていない。休符があるから音楽が生きるんだ。跳ねるのだって、休符が一緒じゃないとできないからね。さあ、一緒に来てくれ」。ドはそう言って、みっちゃんの背中をどんと押しました。

「わあーっ」、そのままつまずいて転がったけれど、雲の上だから痛くありません。

「さあ、立ち上がってもう一度、それー」という合図に思わず走りだしました。いつの間にかたくさんの音符や休符も出てきて、一緒に踊ったり跳び跳ねたりしました。

すると、そのたびに、今まで聞いたことのない美しいメロディーが、ポロポロとこぼれてくるではありませんか。

みっちゃんは楽しくて楽しくて、ずっとここでこうしていたいと思いました。

「ピーッ」。笛の合図で、みっちゃんはハッとしました。

「しまった、今は体育の時間だったんだ。みんな、ありがとう。さよなら」と言うと、みっちゃんは木の根元まで、光のはしごを下りていきました。

ポンポンと肩をたたかれて気がつくと、みっちゃんの前にはすみれちゃんが立っていました。

「やだ、みっちゃん寝てたの? 私、逆上がりできたよ」

みっちゃんは目をパチクリしました。(夢だったんだ……)

でも不思議でした。それからあのメロディーを思い出すと、体が軽くなって、なんでもできる気がするのでした。

しばらくして、また大きな病院にお母さんと行きました。

「みっちゃんの体は、もうなんともないよ。よかったね。これからは、もうお友達と同じように走っても大丈夫だよ」とお医者さんに言われました。

帰り道、みっちゃんはうれしくて、お母さんの手をギューッと握りました。

「今日は逆上がりのテストをします」と先生がおっしゃいました。久しぶりにみんなの列に加わったみっちゃんは、不安な顔をしています。それまで、運動しちゃいけないって言われていたので、逆上がりをしたことがなかったのです。

(逆上がりなんて、できないよ)とみっちゃんは思いました。でも……、その時、胸の奥でまた、あのメロディーが流れてきたのです。

できるかもしれない……なぜかそんな自信が湧いてきました。そして、思い切って足を蹴り上げました。

するとどうでしょう……できたんです!

「今のはまぐれじゃないか? もう一回やってみ」と、驚いた先生はおっしゃいました。(え~? そんなあ。でも、もう一度!)

どうだったと思う?……やっぱりできたんです! みっちゃんは、とってもうれしくなって、ぴょんぴょん跳び跳ねたいぐらいでした。

みっちゃんが空を見上げると、高い空に浮かんだ雲が、キラリンと光りました。

それから数十年がたちました。すっかり大人になったみっちゃんは、賛美歌の伴奏をして、美しいメロディーを奏でています。あの時聞いたメロディーを、今も追い求めているのです。

(おしまい)

文・のむら たえこ
絵・ほり はつき