仕事場を訪ねて「遺伝子だって変わる」

三瀬名丹(なたん)

筑波山(つくばさん)を遠く望む栃木県下野(しもつけ)市の自治医科大学に、環境予防医学の研究をしている信仰の友、三瀬名丹さんを訪ねました。(手島誉世夫)

私はドクターコース時代からずっと遺伝子の研究をしてきて、フランスのパスツール研究所や、理化学研究所で研究を続けてきました。

12年前から、この自治医科大学の環境予防医学講座に籍を置いています。ここで、環境が遺伝子に影響し、人体や健康にどのような変化が起こるか、ということを主に調べています。

どういうことかというと、たとえば何かしらの食品であったり、タバコのような嗜好品(しこうひん)をずっと摂りつづけると、遺伝子に何らかの影響が出てがんにかかったり、特定の病気になったりします。それが本人だけでなく、子孫にも影響を与えてしまうことがあるんです。

こういう現象を「エピジェネティクス」といいます。DNAの中の遺伝子情報は変わらないのに、遺伝子の働きをコントロールする仕組みのことです。

たとえば、飢餓地域で妊娠初期に低栄養にさらされ、低体重で生まれた赤ちゃんは、大人になってからメタボリックシンドロームになりやすい、という研究結果があります。それは、少ない栄養からでも大きくなるために、胎児が発生する過程で遺伝子に何か印がついて、体内に栄養をたくさん取り入れるような変化が起きたからだ、と考えられています。出産後、赤ちゃんは母乳で栄養を与えられ成長していきますが、胎内で形成された、栄養を効率よく取り入れる仕組みが後に災いし、糖尿病や高血圧になりやすいのです。

そのように、同じ遺伝子でも、そこにつく印のつき方によって機能のしかたが変わってくるわけです。何らかの化学物質の影響でエピジェネティクスが変化し、遺伝子の機能も変化する。それが、がんをはじめ多くの病気の原因となる、ということなどの研究を行なっています。

神の御手を見る学者に

私は中高生のころから、「空の鳥を見よ、野の花を見よ。自然の中にも、神様のお心を見るんだよ」と教えられた、キリストの言葉が好きでした。

高校生の時、幕屋の集会で祈っていたら、「自然の中にも神様の御手を見るような生物学者になるんだ」という思いがわいてきました。そして祈りつつ、生物学者として研究をしてきました。

でも実は、この大学に異動した当初は、戸惑いがあったんですね。

私が今いる研究室は、環境がヒトの健康に及ぼす影響を研究しています。それまで私は、発生学や遺伝学などの基礎生物学の研究をしてきましたので、医学部で行なわれているヒトの健康や病気についての研究は、私にとっては畑違いでした。

40代になって、それまでの研究分野を変えることに不安もありましたし、基礎生物学の研究者であることに誇りを感じていたので、未練もありました。

でも、「どうしたらいいのですか」と神様に聴く思いで、研究の手がかりとなる論文を探している時です。『生命の光』誌で、手島郁郎先生が妊娠初期のお母さんのおなかに手を按(お)いて祈り、母親と胎内の子を祝福した、というお話を読みました。

ルカ福音書のイエス・キリストの母マリヤについてのお話でしたが、イエスや洗礼者ヨハネという偉大な宗教的人物は、生まれる前にその母親たちが神の霊に満たされた状態で胎内生活を送った、という内容でした。これが、そのころ読んでいた論文とつながったんです。

環境がエピジェネティクスを介して胎児の発生に影響を与えること、しかも妊娠初期に受けたものの影響が大きいということ。さらに、その環境からの影響が本人だけでなく、世代を超えて伝わる可能性があることも、その論文には書かれていました。

医学研究では、タバコや重金属など、胎児に与える環境からの悪い影響に重点を置いて、研究が行なわれます。でも、マリヤが神の霊、聖霊の雰囲気の中で妊婦の時期を過ごしたことが、イエス・キリストという不思議な人物を生んだように、よき影響を与える事例もあるだろうと考えたのです。

「これまで学んできたことは、このことを研究するためだったんだ!」と心ときめいて、それから今の研究分野に強く心がひかれるようになったんですね。

その後、研究室内では新しく、妊婦さんと小さいお子さんたちへの化学物質の影響などを調べるプロジェクトが始まり、私もその一端を担うようになりました。

未来の世代のために

実験結果をコンピュータで解析する。研究室では白衣を着ないのが三瀬さんのスタイル。

今もさまざまな実験をしながら、生命とはなんてよくできているんだろう、これを創(つく)られた神様はすごいなあ、と驚くことばかりです。この驚きは、私自身が子供のころにした経験についても同様です。

私は小学校入学直後の健康診断で、心臓の真ん中の壁に穴が開いている、心室中隔欠損であることがわかりました。運動はできず体育の授業はすべて見学、食事にも厳しい塩分制限がありました。

小学2年生の春、心臓の手術を受けることになり、手術前の精密検査のため大学病院に入院が決まりました。その前に幕屋の小学生の友人たちと、長野県の幕屋の方の農場を訪ねたんです。広い農場で自然に触れ、安静の身も忘れて、みんなと大はしゃぎしました。

でもその夜の集会で、一緒に行った小学生の仲間たちが、私の病気が治るようにと、私の周りでぎゅうぎゅうになって祈ってくれたんです。

その後、入院してたくさんの検査を受けましたが、心雑音もなくなり、心臓の病気はすっかり治っていました。3年生からは体育もできるようになりました。

祈りで病気がいやされた! という驚きが私自身の中に深く刻まれました。だから今も、「神様は生きている、子供の祈りを神様は聴いてくださる」ということを、若い人たちに知ってほしいんですね。

現在、ヒトの遺伝子配列は、どんどん解析が進んでいます。しかし、ただ遺伝子の塩基配列が遺伝のすべてを支配しているのならば、それが人の運命を決めてしまうかのようにも思えます。けれども、環境からの影響がエピジェネティクスに作用し、長期的に見ると、遺伝子そのものも変化する可能性があることがわかっています。

それならば、今の若い世代に霊的なよい影響を与えつづけていくなら、世代を超えて、きっと神様の御手を見ることのできるような者たちが生まれてくる。そう思ってワクワクしています。

(さいたま市在住)


本記事は、月刊誌『生命の光』830号 “Light of Life” に掲載されています。

次の記事

4月19日