北の国から「うるおいの時は必ず来ますよ」
石山千恵子
「こんにちは! 『うりずんのラジオエッセイ』の時間です。今、お聴きになったあなたは、『うりずん』って何? とお思いになったことでしょう。
『うりずん』という言葉は、私の出身地・沖縄の方言です。大地がうるおいはじめる、春の季節を表しています……」
今年(2023年)の4月から、北海道・帯広のローカルFMラジオで、1つのコーナーを任されるようになりました。知り合いのプロデューサーの方が声をかけてくださり、月に2回、15分間を、私1人で話しています。

帯広の方たちからすると、沖縄から来た私が北海道日本ハムファイターズについて熱く語り、沖縄の話題を伝えるのがユニークに感じられるようです。先日も、リスナーの方がうれしい感想を寄せてくださいました。
「毎回、楽しみに聴いています。お声も心地よく、お人柄も素敵だな~と思っていました。言葉のチョイスが、私の心に優しく入ってきます……」
私は野球好きな、78歳の普通のおばあさんです。ただ一つ私にあるのは、感謝です。こんな日が来るとは夢にも思えない、苦しい10年間が私にはありました。
うつ病の10年間
私はアメリカ施政下だった沖縄で知った幕屋の信仰をもっと学びたくて内地に来て、やがて同じ信仰をもつ主人と結婚し、十勝に来ました。
ところが、46歳の時にうつ病を発症しました。
更年期障害に加え、さまざまな心労が重なって心がバランスを失ってしまったようです。ある日突然、強い不安感が襲ってくるようになりました。それが始まるとパニックを起こし、何もできなくなりました。
私は生まれつき足が不自由です。そのため、幼少期からずっと周囲の方たちに助けられて生きてきました。
そんな私でも、何か少しでも人様のお役に立てることはないだろうかと思い、一念発起して取ったのが、運転免許です。十勝から釧路や北見へと車を走らせて、同信の友を訪ねるのが私の喜びでした。
また、持ち前の明るい性格で、皆さんに元気を届けていたつもりでした。
でも、うつ病でそれらすべてを奪われてしまいました。家族の食事だけは何とか作りましたが、後は1日じゅう、窓の外を眺めることしかできませんでした。「もう私は何の役にも立たない」と心底思いました。
そんなある日、家でボーッと庭を眺めていると、1羽の鳥が目に留まりました。
茶色の羽毛はすすけていて、お世辞にもきれいとは言えません。でも、その羽毛はまるまるとして、まるで分厚いコートのように、鳥の体を覆っていました。それを眺めているうちに、なぜか涙があふれてきました。
こんなみすぼらしい鳥でも、厳しい冬を越すためにまるまるとした羽毛で覆ってくださる神様なら、私が滅びることを決して喜ばれない。以前、『生命の光』誌に載った手島郁郎先生の歌が心の支えでした。
雀(すずめ)だにみゆるしなくば地に墜(お)ちず
恐れずにあれ 惑わずにあれ
「あなただから聞いてほしい」
それからです、子供たちの同級生のお母さん方から、電話がかかってくるようになりました。同世代の方たちで、同じようなうつの症状があられたのでした。
私はまだ体調に波があって、家で寝ている状態でしたので、「もっと元気な人に電話をすればいいのに」と言いました。でも、「あなただから話を聞いてほしいの!」とおっしゃいます。
お話を伺っていると、「大丈夫、出口の光は見えているから」と、いつの間にか励ましの言葉が私の口から出ていました。そうするうちに、私の体調も少しずつ回復していきました。
私が「役に立っている」と思っていたことなど神様には何でもなかった。自分ではもう何もできないと思った時に、私は初めて心の痛んだ方たちに寄り添えるように変わりはじめたのだと思います。神様が見つめていてくださるのは、自分でも気がつかなかったような、私の内側の奥にある尊い姿なのだと思うのです。
「うりずん」の時はすぐそこに
私は若い時、札幌で伝道者の先生のもとに置いていただいて、お手伝いをしながら信仰を学びました。その先生は、貧しいながらも祈り深く、輝いておられました。いい時だけでなく、苦しい時も、何があっても、ただキリストに信じて生き抜かれた姿を身近に見てきました。先生のもとで過ごした2年間を通して、私の魂はキリストにしっかりと結びつけられました。
78年間、決して平坦(へいたん)な人生ではありませんでした。でも、注がれてきたキリストの御愛は、むだになることはありませんでした。よいことも悪いことも、すべて私の魂を深く耕すためでした。
今、任されているラジオのコーナーも、キリストが、「さあ、やってごらん。今まで受けてきた恵みの数々を、あなたの声で伝えてごらん」と励ましておられるように感じるんです。
こんなおばあさんの声なのに、「うりずんさんの声にいやされます」というリスナーさんからのお便りを頂くたびに、皆さんが求めているものを神様が私に預けてくださっているのだな、と思うのです。
冬枯れの時が長く続いても、春はやって来ます。うるおいの時が、「うりずん」の時が必ずやって来ます。人生、どんなに苦しい状況が続いても、必ず立ち上がれる時が用意されているのです。
今月も電波に乗せて、「あなたにも『うりずん』の時が来ますよ!」と発信しています。
本記事は、月刊誌『生命の光』848号 “Light of Life” に掲載されています。

