エッセイ「祈りの帯」

亡くなった母の荷物を整理していると、タンスの奥から、ぐるぐる巻きのさらしの布が出てきました。いったいこれは何だろう? 少し黄ばんだその布地を広げてみると、立派な墨字で、「愛は長久に墜(お)つることなし」と記してあります。

どなたの文字なのか? もしかしてこれは腹帯?

私を身ごもった時の物だとしたら、50年以上も前です。母から一度も聞いたことも、見せられたこともない腹帯の発見に、驚きました。引っ越しを重ねた中で、母がこの腹帯を捨てずに大事にしまっていたことに、深い感動を覚えました。

日本には妊娠して5カ月目の戌(いぬ)の日に、母子共に守られますようにと、腹帯を巻いて安産を祈願する風習があります。「帯祝い」とも呼ばれ、腹帯を締めることでおなかの冷えを防ぎ、大きくなっていくおなかと腰を守る意味もあります。

私自身が妊婦だった時は、簡易なサポーターのような腹帯が主流でした。腹帯をするころには胎動を感じ、新しい命が宿っている不思議さと喜び、そして不安も入り交じりながら、母親になる自覚が少しずつ芽生えていった日のことを思い出します。

でも、2人目を妊娠した時は、帯祝いを迎える前に流産してしまいました。「赤ちゃんの心臓が動いていません」と言われた時は、ショックで泣きました。順調だったわが身に突然起こった出来事に、命の誕生は決して当たり前ではないと知りました。

母は10代で結核にかかり、片肺しか機能していない弱い体でした。子供を宿したことは、どんなにうれしかったでしょう。同時に、命がけで子供を産むことに不安も大きかったと思います。きっと必死の祈りと相当な覚悟をもって、この腹帯を巻いて出産に備えたのではないかと思いました。

古びた腹帯を見つめていると、生命の誕生を待ちわびる父と母、そして、周囲の人たちの祈りと期待が、50年の時を経て伝わってくるようでした。

「愛は長久に(いつまでも)墜つる(絶える)ことなし」。新約聖書に出てくる、この言葉に思いを馳(は)せていると、「神様の愛は永遠に変わることはない。どんな時も握って放さない、神の御腕が支えているから、大丈夫!」と、腹帯から静かに、そして強く囁(ささや)きかけてきます。

母はきっと、出産を通してこの言葉を体験し、なおこの御言葉に励まされつつ、子供の成長を祈りつづけたのだと思いました。

先日、住み慣れた地元を離れて関東に転勤していった年下の親しい夫婦と、久しぶりに再会しました。「子供を授かりました!」と弾ける声。これまでの2人の歩みを知っている私は、うれしくて胸がいっぱいになりました。

この夫婦に天から託される新しい命が、どうかたくさんの愛の中で豊かに育っていきますように。

そして、どうぞこの母子を守ってくださいと、母になる彼女のおなかに、そっと手を当てました。


本記事は、月刊誌『生命の光』878号 “Light of Life” に掲載されています。

日々の祈り

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