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ダミエン神父がいた頃のレプラ患者の村(モロカイ島)

 お父さん、お母さん、お元気ですか。

 モロカイ島のカラウパパにきて、1年たちました。ここでは、教会のダミエン先生が、いつもやさしくしてくれます。ジョーおじさんもいます。お友だちもできました。

 ダミエン先生とおじさんは、いっしょに家をたてたり、水道をつくったりしています。わたしはいつも、お手伝いをします。この前は、グアバやオレンジの木を植えました。

 また、お手紙書きます。

ヘレナ

 今日もヘレナは、ダミエン神父とジョーおじさんと一緒です。神父は村でたった一人の健康な人。ヘレナもジョーも、村びとはみんなレプラ(ハンセン病)患者です。ハワイじゅうからここに連れてこられたのでした。

 「わあ、グアバの実がなってる!」

 「はっはっは。そうだろ。グアバはな、みっともないのがうまいんだ。きれいでつるつるなのは、すっぱくて食べられねえ」。ジョーが言いました。

 「へえー」。ヘレナの顔も、病気のせいでデコボコだったから、ちょっぴりうれしくなりました。

 「おじさん、何でいつもニコニコしてるの?」

 「そうだな。わしだって、ここに来たときゃ、暗い顔をしてただろうよ。なあ、先生」

 ダミエンは、うれしそうに笑いました。

 「どうしてわしだけがこんな目にあうのかと、世の中を恨んでたんだ。酒ばっかり飲んでな。だけど、ダミエン先生にお会いして、わかったんだ。こんなわしのことも、愛してくださる神様がおられることが……」

 ジョーは、泥だらけの手で顔をふきました。

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 ダミエンの教会は、日曜日には入りきれないほど、たくさんの人たちが集まります。ジョーは、誰よりも早くやってきて、ダミエンの話を聴いているのでした。

 「おじさん! 今日は外でお仕事しないの?」

 ジョーは最近、急にレプラが悪くなっていました。たんがつまって、しょっちゅう吐き出すので、大好きな日曜の礼拝も、教会の外で聴いているのでした。そのうち、ジョーは歩けなくなりました。ヘレナは毎日のようにおじさんの家に行って、お世話をするようになりました。

 そんな日曜日の朝。コンコンコン、と戸をたたく音がします。ヘレナが戸を開けてみると、立っていたのはダミエンでした。

「ジョーはいるかい? 迎えにきたよ」

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 「先生、わしはもう動けません」。ジョーは、弱々しく言いました。

 「だいじょうぶ。行きましょう」。ダミエンはジョーをおんぶして、一歩一歩、歩いていきました。ヘレナも後からついていきました。

 教会の入り口は大きく開かれていました。ダミエンは、中に入ってジョーを下ろすと、床を指さして言いました。

 「どうだい? 私の発明ですよ」

 見ると、床に穴が開いています。その穴は一つではありません。隣の席の前にも、その隣にも開いているのです。ダミエンはタロ芋の葉をくるりと筒にして、その穴にさしました。

 「ここにたんを出せばいいんだよ。こうすれば、ここで祈ることができるでしょう?」

 ダミエンはそう言うと、また次の患者を迎えにいくのでした。

 ジョーの目から、ぽとりぽとりと涙が落ちました。ダミエンの愛がイエス様の愛と重なって、ありがたくてしかたがなかったのです。

 それから何年かの時が流れました。ダミエン神父が、レプラにかかったという噂が広がりました。それでもダミエンはいつもと変わりません。いいえ、前よりもっとうれしそうに働いているようにも見えました。これで、みんなと同じ苦しみを背負って生きていける、そう思ったのかもしれません。

 やがて教会の床に、たんを吐き出すための穴が一つ増えました。それは、いつもダミエンが立って話をする場所でした。

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 「ダミエン先生、おはようございます!」

 ヘレナが、教会の屋根を見上げて言いました。小さかったヘレナも、もうりっぱな大人です。ダミエンはあいかわらず大工仕事。

 「やあ、ヘレナ。元気かい」

 そのとき、ダミエンの手から金づちがはずれて、ヘレナの前に落ちました。ダミエンはゆっくりと降りてきました。

 「すまないね。ありがとう」

 差し出したダミエンの手を見て、ヘレナはびっくりしました。赤くはれあがり、指がくずれかかっていました。ダミエンは、それほど悪くなっていたのでした。

 それから1カ月後、ダミエンはとうとう寝たきりになりました。

 「ダミエン先生、ヘレナです」

 「ああ、来てくれたのかい」

 「はい。オレンジを持ってきましたよ。ずっと前、先生とジョーおじさんと一緒に植えた木に、たくさんなっていたんです」

 ベッドに寝ているダミエンは、やさしい目で、ヘレナを見ました。そして、思い出すように言いました。

 「あのころは、まだ小さな女の子だったね」

 ヘレナも思い出していました。マウイ島から船に乗せられて来た日のことを。お父さんやお母さんと別れて、かなしくて泣いていたとき、「天のお父様が一緒にいてくださるよ」と声をかけてくれたのが、ダミエンでした。

 「どうだい? あのとき私が言ったとおりだったろう」

 「はい」

 「これからも、だよ」

 ヘレナは返事をしようと思いましたが、声が出ません。そのかわり涙がボロボロ出てきました。

 次の日、ダミエン神父は天に召されました。

* * *

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 大好きなダミエン先生、

 先生が天国に行かれてから、ずいぶんたちましたね。今は、泣いているひまがないくらい、いそがしくしています。初めは先生が一人でやっていたことを、今はみんなでやっています。私も、子供たちの寮で、女の子たちの世話を始めました。

 先生のやりかけていた、教会の工事は終わりました。広くなった教会で、みんな喜んで祈りつづけています。床の穴は、そのままに残っています。いつか、私もそれを使う時がくるかもしれません。でも、だいじょうぶです。天のお父様がいっしょにいてくださいますから。

ヘレナより
(おわり)

文・まちやま みねこ
絵・ばば のりこ