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菅沼 浩平

 昭和23年(1948年)11月8日です。千曲川で自殺を図ろうとしました。当時は立派な橋ではなく、木の橋でした。あそこから飛び込んだら死ねるだろうと思った。ところが橋の上で、これが最後と思いながら月を仰いだら、なんともいえない喜びが内側から突き上げてきて、その瞬間、死を思い止まった。なぜかうれしくて、畑の中を走って家に帰って母に話したら、「それはキリストに出会ったんだ」と言うんです。

 私は幼いときに中耳炎になって、ひどかったらしい。膿が耳から出る。戦時中だから抗生物質もない。庭の薬草をすりつぶして耳に入れる、それに、頭に灸をするくらいのことしかできなかった。それで両耳の鼓膜が破れてしまって、まったく聞こえなくなりました。そのうえ、体も弱かったので、小学校へ行っても皆に馬鹿にされました。弱い者は死んだがましだ、お国のためにならない、という風潮でした。

 そんな私を、母は黙って抱きしめてくれました。でも、女の子にまで竹ぼうきを持って追いかけられ、いじめられて、ほんとうに辛い毎日でした。それで12歳のとき、死のうと思ったんです。

(2015年 東京都在住)