角 新吾

 私は、鋳物に使う砂を売っています。特殊な砂で、値段は普通の砂の20、30倍はします。

 鋳物は、家庭でいうとプリンやゼリーのように、あらかじめ型を作っておいて、冷えると固まる液状の物をそこに流し込み、固まってから枠を外すと、型どおりの形ができる、という技術です。

 何千年も前からある技術ですが、自動車産業などといった、今の最先端の物づくりでも盛んに使われているのです。

 鉄を高温で溶かして鋳込むのに、何で型を造るのか。熱に強くていちばん安いのは、珪砂(けいしゃ)という砂です。千数百度に耐えられます。天然の珪砂は1キロ数円で売られていて、鋳物用には世界じゅうのほとんどがそれで賄われています。

 残りのわずかな割合で、特殊な砂が用いられるんです。なぜかというと、珪砂は高い熱にさらされると膨張するので、厳しい寸法精度を求められる製品に使うには、難しい点があるのです。

 私の勤める会社は、高温にさらされても耐久性があり、ほとんど膨張しない人工砂を扱っています。複雑な形状や、高い温度が必要な鉄の鋳物にとても向いています。

 それに、再生率が高いんです。普通、型に使う珪砂は、再生しようとしても割れてしまってロスが大きいんです。その結果、大量に廃棄することになり、廃棄場所などの問題があります。けれどうちの会社の人工砂は硬く、再生に非常に適しています。

「君が面白そうだから」

 大手総合商社の子会社で、名前に憧れて採用試験を受けましたが、とても私が入れるとは思っていませんでした。イスラエルのヘブライ大学中退という学歴だし、採用試験でのペーパーテストの結果はボロボロでした。それなのに採用されて、驚きました。後で「角君、可能性があって面白そうだったから入れたよ」と言われました。

 私の両親は幕屋の信仰をもっていて、父は何かとイスラエルに対して心熱い人です。その影響もあって、私は高校卒業後に幕屋のイスラエル留学を目指しました。

 私は、留学を志すに当たって、キリストのお役に立つことを願うのであって、日本でいい職に就くことなんて棒に振ってもいいんだ、と思っていました。ですが逆に、社会は今、そういう一風変わった人間、海外に出て挑戦することを恐れないような、情熱のある人間を求めている、と感じます。

 イスラエル留学では、聖書の言葉・ヘブライ語を学びました。勉強は得意じゃないけれど、祈って困難に挑戦しようと大学を目指し、何とかヘブライ大学に入学することができました。聖書の国を体感し、また友らと心燃やして生きる、かけがえのない日々でした。

否定的な声に悩まされ

 ところが、そんなある時、突然「おまえには絶望しかないぞ」という声が、はっきり聞こえたのです。そんな声が聞こえるなんて、考えもしませんでした。

 気のせいだったと思いたいけれど、勉強が難しくてうまくいかなくなると、もしかしたら本当の声だったのかな、という思いがだんだん大きくなっていく。でも、こんなこと誰にも相談できないな、と思っていました。

 授業中とにかく眠くて、大学の帰り道、「だめだな、ほんとだめだな」と、否定的なことばかり呟いていました。気力がなくなって、単位が取れないままに時間だけが過ぎ、結局卒業できずに帰国しました。日本で生活しはじめても、自分は絶望なんだ、どん底なんだと思っていました。

 1年ほど後、札幌で幕屋の青年集会があった時、そんな私を見て、「元気がないじゃないか。思っていることを話してくれないか」と同世代の友が言ってくれました。それまで言えなかった、否定的な声に悩まされてきたことを、その時初めて話すことができたんです。

 そうしたら皆が、自分の悩みのように受け止めてくれて、心から私のために祈ってくれました。

 その時、熱い祈りの中で、神様の生命が注がれた実感がありました。そうすると、私の内側から、「自分の中にある絶望を捨てて、キリストにある希望に生きていくんだ」という思いが湧いてきたんです。水を得た魚のように、久しぶりに心の底から喜びが湧いてきました。そして「これだな! この生命だ」と思ったのです。

 それからは、苦しいことがあっても、心の軸には希望があるんです。今はきつくても、神様はきっと導いてくださる、という希望と確信があります。

行き詰まっている所に

 私は上司から「君には社会人としての常識がない」と言われます。海外にいたせいか、世間話ができません。でも「交渉は任せたよ」と言われるんです。常識がないと普通は交渉などさせないはずですが、「おまえ、やってみろよ」と言われる。型にはまっていないことを買ってくださっているのか、まじめで常識的な人以上に、期待をかけられている気がします。

 私は主に、海外の取引先を担当していて、出張も多いのですが、どこの鋳物メーカーも、「うちの技術力としてはもうこの程度か」と行き詰まっています。そういう時に特殊な砂を紹介して、もっと寸法精度の高い鋳物を造れますよ、そうすると新しい業界にも製品を提供できるじゃないですか、環境にもいいんです、と話すわけです。

 何度もテストをして、時間をかけてやっと買っていただけるという特殊な砂なのですが、今はありがたいことに、売れに売れて生産が追いつかないぐらいです。

 希望を失っているような所に、希望をもっている人が1人行くだけで、この人には何かありそうだな、何でなんだろうと皆が驚く。こんなことが周囲に起こってきたのは、神様が私の内に希望を湧かせてくださったからだと思います。

 札幌での青年集会がなかったら、今はありません。

(2018年 名古屋市在住)