伊藤 純男

 宇宙が神秘に包まれているように、人間の心は未知です。その秘められた力は、誰も解明できていません。

 私が影響を受けた本に『古代への情熱』があります。ドイツの考古学者であったハインリヒ・シュリーマンの自伝です。

 貧しい少年時代を送ったシュリーマンは、恋する女性のために必死に働きました。やがて事業を立ち上げ、何度も破綻の危機を迎えますが、彼の熱い心に天が応えるようにして、巨万の富を得ました。その手段として、約20カ国語の言語を習得したといわれています。

 事業を清算した彼は、実在するかわからないギリシア神話の舞台・トロイアの発掘へと踏み出しました。築いた莫大な資産と持ち前の情熱をもって、神話が歴史的事実だと証明しようとしたのです。

 すると1873年、なんと実際にトルコ沿岸で、トロイアの遺跡を発見してしまったのです。熱い心は、強力なエネルギーを生み出し、人生を切り開いていくということを実証したのが、熱情の人・シュリーマンでした。

祭り人間の変貌

 大阪の泉州地域で育った私は、20歳を過ぎた頃まで、地元で盛んな、だんじり祭に人生を捧げていました。それだけのやりがいを感じていましたし、命がけの祭りに心を熱くされていました。

 しかし、「だんじり命」という私を一変させたのは、イエス・キリストでした。10年前、幕屋の集会の祈りの中で、私はキリストにお出会いしたのです。

 その衝撃と感激によって、脳細胞から筋肉の隅々まで「祭り」一色だった私が、キリストが慕わしくてたまらん、という男に変貌してしまいました。

 やがて、聖書を原文で学びたいという衝動にかられ、聖書の舞台であるイスラエル、さらには新約聖書に登場するギリシアに留学し、ヘブライ語とギリシア語を学ぼうと決意しました。

 言語の習得中に、『古代への情熱』を読んでは心を奮い立たせ、2つの言語で書かれている聖書を原文で読めるようになったのです。

 高校生の時の通知表が赤点だらけだった私にとって、驚異的な変化でしたし、そもそも大阪から出て生活するとは、思いもしませんでした。

 ギリシアには少数の知人の他には、頼るものなど何もなく、経済状況の悪い中で、就学ビザが取れないなど、さまざまな問題がありました。

 ところが、いろんな助け手が天使のように現れ、豪邸のような家を月2万円で借りられたり、取得の難しい滞在許可が下りたり、これでもか! というほど必要なものが与えられました。まるで、キリストが私の心に宿り、鮮やかに道を示してくださるようでした。

 それでも、毎日がハッピーというわけではありませんでした。食うものも食わず、寒さに凍え、異国で味わう孤独に涙することもありました。

 けれども、キリストの火に心燃やされてしまったら、何かをせずにはおれなくなる。普通に飯食って仕事して寝るだけ、という生活では済まなくなるんです。そしてこの火が消えそうになることほど、恐ろしいことはありません。

 燃え上がるような心、これこそが私の生きる望みであり、「生きる」ことそのものとなったからです。

心に隠されているもの

 今でも大半の人が、お金や物があれば何か事を為せる、と思っている。そういった物がなければ希望がもてない、と。

 けれども、シュリーマンの熱い心が夢を実現していったように、大事なことは、人の心に秘められたエネルギーの宝庫を発見することです。人の心には、そのような秘密が隠されているのです。

 私にとっては生けるキリストです。キリストに恋焦がれる心。共にある歓び。その時に生ずるエネルギー。この発見に勝るものなしです。その神秘な力が情熱となり、未来を切り開いていくのです。

(2017年 東京都在住 32歳)