林 新

 ぼくは、エルサレムにあるヘブライ大学の医学部生物医科学科で学んでいる、唯一の日本人です。

 主に、有効な治療法が見つかっていない、がんなどの病気を治療する突破口となるために、必要な知識と技術を学びます。

 この学科は、ノーベル賞の受賞者も輩出しています。入学に必要な試験の点数も高かったけれど、入ってみたら、周りのレベルが違いました。みんなものすごく頭がいいし、それに、モチベーションがとても高いんです。半分ぐらいが海外生まれのユダヤ人で、目指しているのが、ユダヤ民族が父祖の地に帰って建国したイスラエルで勉強して、将来この国に貢献するんだ、ということなんです。

 いい職業に就いてお金を稼げればいいや、じゃない。1つでもいいから誰にもできないことをして、イスラエルという国を世界に示してやろうと思っている人たちで、ぼくはそれにびっくりしました。

「隣人を愛せよ」が基

 分野にもよるのですが、イスラエルの医療は進んでいます。特に整形外科の分野は世界でも指折りといわれています。ぼくは留学に来る前に日本で、手の指に大けがをしてしまいました。その時、治療してくれたお医者さんが、ぼくにそう話してくださいました。

 実際にこちらに来て感じたのは、研究が非常に活発だということです。イスラエル自体が今、ハイテクなどの技術革新と起業が盛んなことで有名ですが、医療の分野も同じで、新しい発見をすることでは、世界でもトップレベルです。ぼくの学んでいる学科も、研究の設備と人材が揃っています。

 ぼくにとって、イスラエルで勉強しているんだ、ということが大きなエネルギーになっています。西洋の医療もたくさん入ってきていますが、イスラエルの医療は、結局は聖書に基づいているのです。

 聖書の中のちょっとした記述、たとえば「サライはうまずめで」というたった一言からでも、夫婦のうちの妻の側が不妊症だということが判断できるほど、聖書の時代の医療は発達していたんじゃないか、と考えられています。

 そして、基になっているのは、「あなた自身のようにあなたの隣人を愛さなければならない。わたしは主である」(レビ記19章18節)という聖書の言葉です。イスラエルの人たちはこの一節から、人間という存在はほんとうに尊いのだ、と捉えています。

 医療を学ぶ、そのいちばんの大本が聖書から来ているということが、聖書の信仰をもつぼくのやる気を引き出してくれています。

 これから、「ユダヤ教における医療」という、世界でもこの大学の医学部にしかない授業を受けるので、とても楽しみです。

神様に息を吹き入れられ

 この前、初めて人体解剖をしました。その時、自分たちは全く意識しないで動かしているけれど、神様が人体のあらゆる働きを造られたんだ、と感じました。そして、「あなたはわが内臓をつくり、わが母の胎内でわたしを組み立てられました」(詩篇139篇13節)という聖句を思いました。

 肺で呼吸する一呼吸も、心臓の鼓動も、筋肉の動きも、腕を動かす時も、考える時も、自分がやっているようで自分じゃないんだな。神様がそれを造られたんだ。そして、母のお腹の中で、まだ自分という存在がない時から、神様は愛を注いで、成長するようにしてくださっていたんだ。そう思うと、形容しがたい感動というか、感激を覚えました。

 創世記に、神様が天地を造られて、いろんなものを創造され、最後に人間を土のちりから造られた。そして命の息をその鼻に吹き入れられると、人は生きた者となった、とあります。その、土から造られた人体を見ていると、今これは死んだ肉体だけれど、神様が息を吹き入れられた時に人間は生きることができる。それが今のぼくたちなんだと、人生観が変わってしまうような思いがしました。

 ぼくは、イスラエルに来たばかりの時に大きな失敗をしました。とても落ち込んで、自分ってなんて小さな存在なんだって、消え入りたいような思いになったんです。

 同じ時に留学に来た仲間や先輩たちが、心から祈ってくれましたが、それすら辛いような気持ちでした。自分で祈っても、最初は、「神様、助けてください」とつぶやくしかありませんでした。

 それでも、ひたすら祈るうちに、こんなだめな自分にも、そして、こんな最低な時にも、神様は愛をかけてくださっているんだ、と感じることができたのです。死んだように心がかじかんでいたぼくに、祈りを通して神様が、ご自身の霊を吹き込んでくださいました。

 そう思うと、神様の息、そして霊が吹き込まれている人間って、ほんとうに素晴らしいなと感じます。その尊い存在を、大切にしたいと思います。

国に貢献できるよう

 ぼくはまだ1年生で、医学以外に、物理、数学、有機化学など、基礎的な勉強もあります。他の学科では2年間で学ぶようなことを、集中して半期で学ぶので、1回の授業で習う量が尋常じゃありません。課題も、「こんなに?」と思うぐらい多く出されて、毎日、四苦八苦しています。

 それでも、みんなの勉強に対する姿勢はすごいんです。授業が終わった瞬間、次の教室に大急ぎで移動していちばん前の席を争い合うほど、勉強に対する積極性が、ぼくの知っている日本の学生と全然違います。ぼくのいる学科は医療の研究のほうに力を注ぐ学科なので、これからぼくたちは、どんどん研究室に入っていきます。

 言語の壁も覚えます。でも、先生方や友達に助けられながら、今、ここでしかできない学びをさせていただいていると感じます。

 そして、国に貢献することを目指す、と語る友達に囲まれていると、ぼくは日本にいた時よりも、自分が日本人であることを意識することが多くなりました。ぼくもいつかはここで学んだことを活かして、日本に貢献できるようなことをやりたいと願っています。

(2018年 エルサレム在住)